わさびの優れた殺菌性

スーパーのさしみのパックには決まってわさびが添えられています。

これは魚の生臭さを消し食欲を増進させる意味もあるのでしょうが、何よりも殺菌力に注目をしたいところです。
生魚にわさび─殺菌力を知ってか知らでか定かではありませんが、古人の知恵には驚かされます。

さて、細菌の繁殖を抑制する抗菌力や寄生虫をマヒさせる殺虫効果は、東京都立衛生研究所の村田以和夫氏らの実験(1988年)でも明らかです。
この実験とは、わさび0.5g、1g、2gの三段階を濃度0.4%の塩水に分散させ、その塩水に寄生虫アニサキスを入れてどのくらいの時間で活動力が鈍るかを観察したものです。

アニサキスは、たらやサバなどの魚に多く繁殖しています。
表からも分かるように、「練り」「粉」「本わさび」に若干の効果の違いがあるものの、すべてのアニサキスが15分で活動できない(動きが弱まる)状態になっています。

つまり、寄生虫アニサキスはわさびの力で動けなくなってしまったのです。
これはわさびのアリルからし油によるものです。

この他、酵母の発酵を阻止する報告もあり、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑濃菌などに対して増殖阻止作用を示します。
この結果は、生の魚をわさびとともに食べることは食味からはもちろん、衛生面からもいいことの裏付けにほかなりません。

しかしこの実験のわさびの量は、ヒトの胃袋に換算すると100gに相当するもので、現実には摂取するのは難しいでしょう。
何事も過信は禁物で、食材自体が新鮮なものを食べることが重要です。
わさびに抗菌作用はあっても、あくまで味を引き立てる薬味であって、薬剤ではありません。
わさびにはカビに繁殖を抑える防カビ作用や防臭効果があることもわかっています。寄生虫の活動さえ弱めるのですからカビの繁殖を抑えることくらい造作もないことかもしれません。
カビを抑えればそれだけ食品を長持ちさせることが出来ます。
そこで現在ではこの作用をもとに業務用の「抗菌・防カビ剤」等が開発されているようです。

これは、わさびの辛味成分をシートもしくはラベル状に加工したもので、コンビニの必需品。
弁当、惣菜、パンなどが輸送しても腐らず品質を保たせるようにと使われています。
アリルからし油はカットキャベツの変色、変質防止にも使われています。
わさびには肝臓における酸化酵素の働きを抑制、つまり発ガン性物質の活性化を抑える作用があります。
また、発ガン性物質を排泄しやすい形に変える酵素の生成を促進させる作用なども見出されてきました。
わさびの中の「からし油」の力によるものらしいのです。
東京都都立短期大学の福家洋子助教授らの実験では、ヒトの胃ガン培養細胞の培養液中に沢わさびの各抽出物を加えたところ、最大で八割以上のガン細胞の増殖が抑制、または死滅したといっておられます。

わさびのどの成分がガンの増殖を抑えるかについても福家先生らの研究グループは詳細に検討され、わさびやわさび大根に微量に存在するグルコシノレートから生成する「6-メチルスルフィニルヘキシルからし油」がその本体であることを突き止めておられます。

わさび溶液による寄生虫の動きの変化
(東京都立衛生研究所・村田以和夫氏ら1988)
  5分 15分 30分 60分
0.5g 2.0g 0.5g 2.0g 0.5g 2.0g 0.5g 2.0g
練わさび 0.5g: 2.0g: 0.5g: 2.0g: 0.5g: 2.0g:マヒ 0.5g:不動 2.0g:不動
粉わさび 0.5g: 2.0g: 0.5g: 2.0g:マヒ 0.5g: 2.0g:マヒ 0.5g:不動 2.0g:不動
本わさび 0.5g: 2.0g: 0.5g: 2.0g: 0.5g: 2.0g:マヒ 0.5g: 2.0g:不動

強=活発に前進、中=体を巻き込むのみ、弱=体を弱々しく巻き込む、マヒ=刺激に動かずも24時間後動き出す、不動=24時間後も動かず